昨年の夏、夫に誘われて家族であるドキュメンタリー映画をシカゴに観に行った。

それは、Cooked: Survival by Zip Code という、1995年に熱波がシカゴを襲い、700人以上の死者を出した災害についてのもの。あの夏は、確かに暑かった。暑さと湿気で、連日体感温度は40度を超えていた。しかし私たちは、冷房の効いた自宅でおとなしく、涼しく過ごすことができた。

シカゴ市内でも、北側の地区に住む人たちは問題なく暑さをしのいだ。
しかし、南側と西側に住む人たちはそうはいかなかった。



シカゴの南側と西側は治安の悪いことで知られ、貧困層が住んでいる。そして、貧困層とは、その大多数がアフリカ系の人たち。このシカゴの熱波で亡くなったのも、大多数がアフリカ系の人たちだった。

これらの地区に住む人たちは、部屋には冷房などなく、治安が悪いため窓は開かないように釘でうちつけられている。周囲には涼みに行けるような図書館も、ホテルも、文化館も、スーパーすらない。行政にも見捨てられたかのような 貧困地区だから。

貧困地区に住む人たちは、自分の健康に普段から気をつけることもできない。いわゆる「健康的な食べ物」は彼らの地区に売っていないし(『食の砂漠』と呼ばれ、食料がまともに流通していない)売っていたとしても彼らには高すぎて購入できない。その結果、コンビニなどで安く手に入るジャンクフードでお腹を満たすことになるため、肥満率も高い。医療へのアクセスもままならないので、定期的な検査さえ受けていれば防げる病への罹患率も高い。 

アメリカでは、人が住んでいる場所によって、平均寿命が大きく変わってくるそうだ。その人の住む場所の郵便番号(zip code)で、平均寿命に大きな差がある… 私たちがシカゴに越して来たとき、シカゴ市内の南側は治安が悪くて危険だから、近づかないようにと言われた。しかし、その危険な地区に生まれ育ち、そこから出たくても出ようのない人たちもいるという現実がある。 

700人以上の死者を出した殺人的熱波という自然災害。しかし、実際の被災者には、奇妙な不均衡があった。だとすれば、これはもはや自然災害というより、社会構造が生み出した人災ではないのか?

それが、このドキュメンタリーを作った人の問いだった。


COVID-19パンデミックでも、シカゴではアフリカ系の死亡率がそうでない人種の死亡率より圧倒的に高い。シカゴ市のアフリカ系人口は全体の3割なのに、コロナによる死者の7割がアフリカ系。

同じように全人口を襲っているはずの危機であっても、その危機を乗り越えられる人たちとそうでない人たちがいる。その要因はさまざまで、私たちにはどうしようもないものもあるだろう。しかし、変えることのできるものもあるとしたら? それを見過ごす、あるいは、見ようともしないのはどうだろうか。


私はシカゴに住んでいるので人種問題には敏感なのかといえば、決してそうではなく、むしろ恥ずかしくなるくらい疎い。自分の家と、日本人を中心とした気の置けない友人たちとのコミュニティーという、自分にとっての安全地帯の中で、外にはあまり目を向けることもなくぬくぬくと暮らしている。うちの子どもたちは、そんな私にチャレンジを与えてくれている。私の盲点を指摘してくれる。長女は、自分から志願してシアトルの貧困地区にある公立小学校で教えている。三女は、医療へのアクセスの不均衡をなくすことを目指す非営利団体で働いている。彼女たちから教えられることは多い。(私の同年代の友人たちも、同じことを言っている。我が子から学べるようになる親は幸いだと思う。)

山﨑ランサム和彦先生が、アメリカの人種問題に寄せて、次のようなブログ記事を書いておられた。
構造的な悪について、また自分自身を省みるにあたり、とても示唆に富むのでお勧めです。

  

人種問題は、日本人にとっては他人事のようでもあり、それでいて、それぞれの人がそれぞれの立場や背景からなんらかの影響を受けているがゆえに(本人が意識しているかどうかにかかわらず)、多種多様の見方のある、とても複雑な問題。同じクリスチャン同士でも、同じ日本人同士でも、また同じアフリカ系同士でも、同じ白人同士でも、さまざまな考えがある。難しい。難しいけれど、目を背けていてはいけない。

主よ、この、目を閉じたままでいたいと願ってしまうヘタレな私を赦してください。そして、あなたの御名のゆえに、見るべきものを見、聴くべきものを聴き、語るべきことを語れるように、助けてください。

あなたの御名が、天であがめられるように、この地でもあがめられるために。
あなたの御国が、天にあるように、この地にも来るために。 
あなたのみこころが、天でなされるように、この地でもなされるために。


追記:
食の砂漠(フードデザート)について。


追記2:
敬愛するサンタクララの中尾真紀子さんがFBでシェアしておられたものを、こちらでもお分かちさせていただきます。真紀子さんも、ティーンのお嬢さんたちから教えていただいたのだそうです。