今日は、ユージン・ピーターソンの"Eat This Book: A Conversation in the Art of Spiritual Reading"という本を読み終えた。聖書を「霊的に読む」ことに関する本なのだけれど、後半は、The Messageを翻訳するに至った経緯などが書いてあり、なかなか興味深かった。

私の中では晩年のユージン・ピーターソンのイメージが強いので、いつもニコニコしたふんわり優しいおじいちゃんという印象だったのだけれど、この本を読んでみたら、思ったより語調が強いのでまずびっくりした。

そして、The Messageを翻訳するに至った経緯だけれど、まだ若かったころのピーターソン(といっても、50代だけど)が、なかなかの熱血漢であったことが伺えた。 とても興味深いと思ったので、以下にシェアします。

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80年代初頭、彼はボルティモアの近くで牧会していた。経済が不安定で、あちこちで人種間のぶつかり合いがあり、緊迫感が高まる中、みな、家の警備を強めたり、これまで銃など持ったこともなかった人が銃を購入し、もしもの時のために備えたりしていた。みな、自宅をまるで軍隊の宿営に変えてしまったかのようだった。それが、街の人たちだけでなく、ピーターソンの教会の教会員の間でも起こっていることに、ピーターソンは戸惑った。

最初は戸惑っていたのが、ピーターソンの中でやがて怒りに変わった。 どうして自分の教会の教会員たちが、こんなにもあっさりと、神を知らない人たちと同じように恐れにとらわれてしまっているのか?と。私は20年間彼らの牧師として、キリストの平和の福音を語ってきたのに、私たちを自由にしてくれた福音を語ってきたのに、この世に打ち勝ったキリストの福音を語ってきたのに、なぜ彼らはこんなに怯え、防衛的になっているのか? まるでイエスを知らない人たちのように! なぜなんだ、君たちはクリスチャンだろう!?

しばらくして怒りが落ち着くと、ピーターソンは考えた。牧師として私はどうしたらいいだろうか。彼らがキリストにある自由な人間としてのアイデンティティーを回復するには、どうしたらいいのか。そうだ、ガラテヤ書だ。ガラテヤ書は、パウロの手紙の中でもパウロがいちばん怒っている手紙。

「ああ愚かなガラテヤ人。十字架につけられたイエス・キリストが、あなたがたの目の前に、あんなにはっきり示されたのに、だれがあなたがたを迷わせたのですか。…あなたがたはどこまで道理がわからないのですか。御霊で始まったあなたがたが、いま肉によって完成されるというのですか。」

ピーターソンは、今自分の教会も、まさにガラテヤ人的危機を迎えていると感じた。そこで、教会員にみっちりガラテヤを教えることにした。まず1年間、毎週ガラテヤ書を使って聖書の学び。それから次の1年間は、ガラテヤ書からの講解説教。彼らをガラテヤ書にどっぷり浸そう。明けても暮れてもガラテヤ書。体の毛穴からにじみ出てくるまでみっちりガラテヤ書…(本人弁)

体の毛穴からにじみ出てくるまでって… (笑)激しいよ、ピーターソン!!

彼の計画を教会員に伝え、1回目のガラテヤ書の学びの日が来た。皆が集まる前に、ピーターソンはコーヒーを用意し、紅茶が欲しい人のためにお湯をわかす。そして紙コップや砂糖やクリーマーを並べ、机には聖書を何冊も用意した。時間になると、14人のメンバーが集まった。しかし、彼らはコーヒーをいれたり歓談したり、なかなか学びを始めるために席につこうとしない。ピーターソンは苛立った。みんな、聖書よりもコーヒーのほうが好きなのか? 聖書がコーヒーに負けている! 

ようやく学びが始まっても、人々はなんだか退屈そうにしている。なぜ彼らにはパウロの情熱が見えないのか?

その日の午後、がっかりしたピーターソンは妻に言った。「そうだ、ギリシャ語だ。彼らにギリシャ語を教えよう。ギリシャ語で聖書を読めば、彼らもパウロの気持ちがよくわかるに違いない!」すると妻は優しくにっこり微笑んで言った。「そんなことしたら、あっという間にみんないなくなっちゃうわね。」

確かに… ピーターソンはギリシャ語作戦はあきらめた。 それに代わって彼が思いついたのは、聖書の言葉を人々の普段の言葉に置き換えるということだった。彼らが日常生活で使っている言葉で聖書を読むことができれば、きっともっとよくわかるに違いない…! そうしてピーターソンは、毎週少しずつガラテヤ書を現代語に翻訳することを始めた。

次の週、テーブルに聖書を並べる代わりに、彼が翻訳したガラテヤ書の最初の部分を印刷したものをホチキスでとめて、それを20部ほど並べた。2週間後、学びが終わって後片付けをしているとき、みんなが後に残した紙コップにはどれも、コーヒーが半分ほど残っていることに気がついた。ピーターソンは満足した。みんな、コーヒーを飲むのを忘れるほどに、学びに熱中したのだ…

そうやって、約一年かけてガラテヤ書を現代英語に翻訳し、自分のガラテヤ書からのメッセージと合わせたものを出版した。すると編集者から連絡があり、現代語のガラテヤ書がすごくよかったので、聖書全体をこの調子で訳してみてはどうですか、と勧められた。

ピーターソンは、最初は冗談じゃない、と断った。ガラテヤ書のように短い書簡を訳すだけでも1年かかったのに、聖書全体を訳すだなんて! しかし編集者は粘り強く彼を説得した。そして、2年後、ピーターソンは牧師を引退して、聖書の翻訳プロジェクトに取り掛かることになった。その10年後に出来上がったのが、あの、The Messageという聖書だった。。。

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いやぁ、いいですね、こういう熱血牧師!! 

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