ボクは、裏庭を探検するのが好きだ。毎日外に出て、隅から隅まで歩き回る。
 昼間はもちろん、夜も裏庭をチェックする。ボクは、暗いところでもけっこうよく見えるんだよ。
 庭には、昼間はリスやウサギが来るけど、夜は違う動物が来る。あちこちに臭いが残っているからわかるんだ。だから、トイレで外に出るたびに、ボクはあたりを見渡し、耳をそばだてる。自分の縄張りを見張るのは当然のことさ。まぁ、おまわりさんみたいなものだ。イヌだからね。

 夕べは、部屋でゴロゴロしていると、外に気配を感じた。  
 裏口の戸をカリカリひっかくと、ナナはボクがトイレに行きたいのかと思って、外に出してくれた。
 外に出るや否や、ほらね! 見つけた。奴がいた。オポッサムだ。袋ネズミともいうらしい。

Opossum
(こういうヤツ。これはナナが撮った写真じゃないけど。)

 最近、奴の臭いが毎日残ってて、気になってたんだ。 ボクは猛ダッシュで奴めがけて走った。奴は逃げた。ボクは庭の隅に追い詰めた。ボクは足が早いけど、奴はかなりのろいので、あっという間に追い詰めた。

 ボクは以前、子供のオポッサムを仕留めたことがある。でも夕べのはもっと大きかった。ボクと同じくらいの大きさだった。だけどボクはひるまなかった。迷わず奴に飛びかかった。奴も驚いたのか、応戦してきた。思わず大声で吠えた。

 そしたら、ボクの唸り声に驚いたナナが、家の中からデッキブラシを持って飛び出してきた。ボクは貫禄のある低い声で吠えてたつもりなんだけど、ナナにはボクがキャンキャン言っているように聞こえたらしい。失礼な話だ。

 フェンスの角に追い詰めたオポッサムとボクが睨み合っていると、ナナがデッキブラシでオポッサムを追い払いつつ、「ウィルソン! 中に入りなさい!」と言った。しょうがないな。ナナにそう言われたら、従わないわけにはいかない。決闘は次の機会におあずけだ。本当は奴の息の根を止めたかったんだけど、今回は逃がしてやろう。そもそも、オポッサムはすぐに死んだふりをして、地面に倒れて動かなくなるんだ。過去にボクが仕留めた子供のオポッサムも、ナナは「あれは死んだふりをしてただけよ。あとでいなくなってたわよ」と言ってた。ちぇっ。

 そんなわけで家の中に戻ると、ナナがボクの顔を見て声を上げた。「ウィルソン!血が出てる!」

 ボクは叱られたのかと思って、ちょっと悲しくなって尻尾を後ろ足の間にはさんで縮こまった。ナナはお湯で濡らしたペーパータオルでボクの顔を拭いてくれた。鼻の頭のちょっと上のあたりに切り傷があったらしい。 ペーパータオルに血がにじんだ。
 それからナナは、ボクをそっと抱きかかえるようにして、ペーパータオルで傷のところをしばらく押さえてくれた。シケツって言うんだって。こうすれば血が止まるらしい。ボクはおとなしくナナに身を任せた。ナナはボクの頭を何度もなでながら言った。「このくらいのケガで済んでよかった。あなたにもしものことがあったら、ナナは耐えられないわ」

 ナナ、心配かけてごめんね。ボクはナナに愛されて、幸せ者だよ。

IMG_4717
 (鼻の頭の上に小さな傷が。)