ボクは、これからどこに行くのか知らなかった。

 一体どこに連れて行かれるのか、皆目見当もつかなかった。

 ただナナ(はちこばあちゃんのこと----ボクのママである「みん」のお母さんだからね)とジジに促されるままに車に乗って、そこに用意されていた赤いクッションの上に恐る恐る座ったんだ。この赤いクッションは、ふだんは家の中にあって、ボクのお気に入りのお昼寝のスポットなんだけど、いつの間にか車の中に移動されていた。おもちゃもあったけど、とてもおもちゃで遊ぶ気にはなれなかった。

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(車に乗せられて緊張するボク。ちょっと目つきが悪いね。怖かったんだよ。)

 ボクは緊張した。前に車に乗せられたときは、行き先は獣医さんで、ボクは注射をされた。その前に車に乗せられたときは、知らないお姉さんたちがいるところに連れて行かれ、シャンプーされたり爪を切られたりした。今度はどこに連れて行かれるのだろう。あんまり良い予感はしない。

 車のドアが閉まって、動きだした。緊張のあまり口が半開きになって、ハアハアと肩で息をしてしまう。体も震えてきてしまう。いくらお気に入りの赤いクッションの上でも、そうやすやすとは休めない。いったいどこに行くのだろう。ボクの緊張状態がしばらく続いたせいか、ジジは可哀想に思ったのだろう。助手席にいるナナに、後部座席に移動してボクの隣に座るようにと言った。
 
 ナナが後ろの座席に移ると、ボクは嬉しくなってナナの膝の上に飛び乗った。これでちょっと安心できる。赤いクッションも好きだけど、ナナの膝の上はもっと好きだ。しかも、ナナは膝の上にちゃんとブランケットを広げてくれたので、座り心地も良い。ボクはナナに寄りかかりながら、窓の外を眺めた。外はいつの間にか夜になっていて、景色は見えない。ただ暗闇の中でビュンビュン音がして、光が流れるように動いている。この光は、公園で見るホタルよりずっと大きくて、動きも速い。仮に今ボクが外に出してもらえても、この光を捕まえることはできないだろうな… ナナに抱っこされながら、ボクはそんなことを考えていた。 

 音はうるさいし、得体のしれない光は動いているしで、ボクの不安はなかなかぬぐえなかった。ナナの膝の上でもやっぱりしばらく緊張して口が半開きになっていた。でも、夜も更けていくうちにさすがに疲れてきたので、窓の外を眺めるのはやめ、ナナの膝の上に体を横たえ、寝る体制に入った。そしてボクはいつの間にか眠りに落ちたようだ。途中でふと気づいたときは、ナナがブランケットでボクの体を包んでくれていた。ナナもボクをなでながら、一緒に眠っていた。

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(ナナのひざの上で眠るボク。快適、快適。) 

 夜が明けたころ、車が停まった。ボクはナナやジジと一緒に外に出た。ちょうどそろそろトイレに行きたかったんだ。さいわいほどよい感じの芝生があったので、そこで用をたし、しばらく遊んでからまた車に戻った。

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(休憩所に降り立つボク)

 その後も、途中で何度か車が止まり、外に出してもらった。どこに来たのかはわからないながらも、そのたびに外の空気を楽しんであたりを歩き回った。ナナとジジが一緒なら新しい場所に行くのも悪くないかも… だんだん不安がなくなっていった。
 
 ボクたちは旅を続けた。 
 
 やがて目的地に到着したらしく、ボクたちはホテルの部屋に入った。一階の部屋で、廊下に通じるドアとは反対側に、庭に通じるガラス戸がある。シカゴの家にある、庭に出るドアに似ている。そうか、トイレに行きたくなったら、このドアから外に出ればいいのかな。ちょうどまた行きたくなったところだったので、ボクがガラス戸をツンツン叩くと、ジジがすぐに外に連れ出してくれた。 

 せっかくホテルの部屋に落ち着いたのに、しばらくしたらまた三人で車に乗って出かけた。しかし今度は10分もしたら車は止まり、ナナとジジが二人だけでいなくなってしまった。ボクはお留守番かぁ。夕方になって涼しくなっていたし、窓も少しあけておいてくれたので、車中はそんなに暑くなく、ボクはお昼寝しながら待つことにした。

 ナナたちが戻ってくると、「お寿司おいしかったね」とか言っている。お土産はないの? ボクはお寿司は食べないから、まぁいいか。

 再び10分くらい車を走らせ、また新しい場所にやってきた。車を降りると、そこは広いフィールドで、ほかにもワンコがたくさんいた。大きいのやら、小さいのやら。今日は初めての場所ばかりだなぁ。だけど、ここはちょっと楽しそう。最初はほかのワンコが近寄ってくると、ちょっと緊張しちゃったけど、おばあちゃんワンコと仲良くなったんだ。彼女はボクが近づいても全然動じないので、ボクも安心できた。しばらくおばあちゃんワンコのそばをうろついて、それからほかのワンコたちとも遊んだ。結構楽しかった。

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(おばあちゃんワンコと)

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(元気な若者たちと。さりげなくスルーされたけど。ボクがチビだからか?)

 たっぷり遊んだあとはまたホテルに戻ってきた。ボクは疲れていたのでぐっすり眠った。

 そして何日かこの新しい生活を楽しむと、再び長い間車に乗った。 途中ですごい山の中にも一泊した。周囲はいろんな動物の臭いがして、ボクはちょっぴり興奮しちゃったよ。それからまた車に乗って、来た時と同じくらい長いドライブをした。ボクはもう緊張していなかった。今回もナナがボクの隣に来てくれたので、ボクはナナの膝の上で寝た。

 そして朝になると、窓の外には見覚えのある景色が見えた。家に帰ってきたんだ。家の中に入ると、ボクのいつものおもちゃが転がってる。なつかしい! 裏庭にも出させてもらった。なつかしい! ああ、やっぱりここがボクの家だ。この1週間はいったい何だったのだろう? ボクにはさっぱりわからない。さっぱりわからないけれど、ひとつ、ものすごくよくわかったことがあった。

 それは、ボクはナナやジジと一緒にいる限りは、どんなところに連れて行かれても、大丈夫だってこと。ボクはワンコだからね、ナナやジジがしていることは、よくわからないんだよ。だけど、わからなくてもいいんだ。ナナとジジは、ボクのニーズはちゃんと満たしてくれるから。決してボクを危険な目には合わせたりしないから。ナナとジジがいなくなっちゃったように見えるときがあっても、必ず帰ってくるし、ボクを抱きしめて、優しくなでなでしてくれるから。ボクは臆病だから、慣れないことや先が見えないときがあるとすぐに緊張しちゃうんだけど、緊張しながらも、本当はわかっているんだ。ナナやジジと一緒にいる限りはボクは安全で、安心だってこと。 

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 (ジジと眠る。ジジのそばはやっぱり安心。)