昨年6月に大学を卒業したエミ、秋からは大学に残って、音楽教師になるための教職課程を取っていた。教員の資格を取るには教育実習が必要だけれど、教育実習をしていると大学の授業や卒業論文にほとんど時間を取れなくなる。そのためエミが卒業した大学では、4年次は自分の専門の勉強に集中し、卒業した翌年に、無料で教育課程を履修できるという素晴らしいプログラムがある。エミは大学4年生のときは、卒業プロジェクトに全力投球していて、就職活動どころではなく、私も、あまりプレッシャーをかけたら可哀想と思い、卒業後の進路のことは100%本人に任せていた。もちろん、相談されればいくらでも相談に乗ったし、必要なサポートは*頼まれる限り*惜しまなかったが。


 4年生の最後の学期になったころ、卒業後はどうするのかな~と思っていたら、大学に残って教育課程を取る、と言い出した。上記のようなプログラムがあることを知らなかった私は、内心、(それならもっと早くから計画をたてて、4年間のうちに終わらせられるようにしておけばよかったのに)と思ったものだった。それでも、音楽で食べていくのは大変だし、教員資格を取るのは堅実だと思ったので、学費が余分にかかるのも仕方あるまい、と思っていた。ところが蓋をあけてみたら、教育課程に必要な学費はすべで大学側がまかなってくれるため、エミに必要なコストは生活費だけだということがわかった。(このことは、実は本人も把握していなかった…)そして彼女は、一生懸命アパート探しをし、二人のハウスメイト(皆、音楽の専攻)も見つけ、一人当たり月500ドル弱で済むアパートをプリンストン市内に見つけた。そして大学内で、時給30ドルくらいのピアノ伴奏のアルバイトも見つけ、学校に行きながらの自活を始めた。いくら時給30ドルとはいえ、そんなに何時間も働くわけではないので、アパートの家賃と食費の分は援助してあげたけれど。


 彼女はとにかく、音楽で身を立てていきたいと思っていた。大学2年生の夏休みに、シカゴ郊外にあるプロの劇団で、夏の子ども向けパフォーミングアーツキャンプのインストラクターをしたことがきっかけで、子どもに音楽を教える喜びに目覚めた。次の年の夏には、劇団から、「音楽ディレクター」という肩書きで戻ってきて欲しいと頼まれ、子どもたちのミュージカルの音楽を全面的に担当した。大学を卒業した夏も、再びお呼びがかかり、その仕事をした。その中で、エミなりに工夫して、ユニークな音楽の教え方を考えた。単に演奏や歌うことを教えるのでなく、子どもたちに自ら音楽を作らせ、自己表現をさせ、そうやって子どもたちの個性や自信を引き出した。エミ自身、人との関わり方が苦手で苦労してきたけれど、音楽を通して自己表現を学び、自信をつけたという経歴の持ち主だったので、そういう子どもたちのために音楽を用いたいという願いを持つようになっていった。そして自分のことを、"Teaching artist"と呼ぶようになった。


 大学に戻ってからの教育実習では、最初は小学校でキンダーのクラスの音楽授業を担当した。次に、市内にある公立高校に配属され、そこでクワイヤとオーケストラの指導を担当した。高校では、エミが作曲家であるということで、エミの曲を生徒たちに教え、それらを演奏するコンサートするようにという課題をもらった。これはものすごく嬉しいことではあったけれど、クワイヤとオーケストラの両方で、全曲エミのオリジナルというのは、作曲する分量も、教える分量も、並大抵ではなかった。


 いくら好きなことだとはいえ、教育課程で自分の授業もとりながら、実質フルタイムで高校で教えるというのは大変なことだった。でも、生徒たちのフォルダーの中にこんなのを見つけたりして、喜びを感じつつ頑張った。


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 ストレスに弱い彼女は、あえぎながらも、本当によく頑張った。とはいえ、さて、就職はどうなるのだろう?と思ったけれど、それも親の口出すことではあるまいと思い、本人に任せていた。彼女は、イギリスの全寮制の学校の音楽教師(任期1年)というのに応募したのだが、スカイプで面接したあと結局連絡がなく、あきらめていた矢先、大学の先生の紹介で、州内の私立の学校の音楽ディレクターのポジションに応募した。それが先月の末。


 その学校は、発達障害や学習障害を持つ子たちの専門学校で、multisensory teachingという方法で教育をしている。そこで音楽プログラムの刷新をはかるため、創造的で慣習にとらわれない自由なスタイルの音楽教師を探していたのだそうだ。面接に行ったらすっかり気に入られ、二度目の面接のときに、仕事のオファーをもらった。パートタイムではなく、ちゃんと医療保険や年金もつく「real job」だ。(←親からすると、ここ、大事。)このオファーをもらったのが、エミの23歳の誕生日の日だったというのも、神様の粋な計らいかもしれない。


 なんとまあ、エミにぴったりの職があったことか! こうしてちゃんと仕事をもらうことができて、本当に感謝。神の見えざる御手が、彼女を導いてくださっているのを感じる…… 彼女のこれまでの経験が、辛かったものも含め(いや、辛かったものほど!)、これからの働きに役立っていくのだろう。


 そして今日は、前述の高校でのコンサートの日らしい。私は行けないのは残念だけれど、彼女の教育課程の必修の一部と見なされるため、大学側がちゃんとビデオに録画してくれるそうだ。あとで見せてもらうのが楽しみだ。