これは、先月ブルガリアで起こった、政府の腐敗と貧困と戦うために、学生たちが国会議事堂の前で起こしたデモでの一場面だそうだ。
学生たちを取り締まるために警察がやってきたのだが、この女子学生が泣きながら、「私たちを叩かないで!」と警察官に訴えると、この警察官も一緒に涙を流しながら、「You just hold on, girl.(がんばるんだよ)」と言ったのだそうだ。この写真は、先月、ブルガリアのFacebook で大変話題になっていたらしい。(出典)
この若い警察官は、本当は自分も一緒にデモに加わりたかったのかもしれない。でも、警察官という立場上、母国のために立ち上がっている学生たちを取り締まらなければならず、葛藤していたのかもしれない。彼は、警察官だからといって、心を鬼にしてこの学生を打つことはせず、また自分の立場を投げ打ってデモに加わるわけでもなく、この女の子と共に泣き、彼女を励ました。彼の行為が「正解」だったのかどうかはわからない。それでもこの写真は、白か黒か、AかBか、という短絡的な二者択一ではなく、葛藤の中からも、その二者択一を越えた第三の選択をすることが可能だということを教えてくれる。
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昨日、南アフリカのアパルトヘイト撤廃のために闘い、そのため27年間投獄されていた、ネルソン・マンデラ氏が亡くなった(享年95歳)。マンデラ氏は、釈放(1990年)後、南アフリカで初めて黒人の国民にも選挙権が与えられた選挙で、大統領に選出された(1994年)。彼が釈放されたとき、デズモンド・ツツ大司教が、通りに出て喜びに溢れて踊っている姿をニュースで見て、大変感動したのを今でもはっきり覚えている。
ヨーロッパの白人の植民地とされ、長い間、国民の10%ほどの白人がすべての権力を握り、黒人やそのほかの有色人種は分離され、差別されていた国。その国に、ようやく平等と民主化がもたらされたのだ。マンデラ氏は、アパルトヘイト撤廃後(完全撤廃は1994年)も、黒人による白人への報復に反対し、平和的な政権移行を主導した。
そのマンデラ氏について書かれたブログを、友人経由で見つけた。
- Nelson Mandela: From Prisoner to President by Brian Zahnd
以下、抜粋。
…南アフリカは、人種差別的体制から、安定した民主主義へと平和的に移行した。それは、奇跡としかいいようのないものだった。しかし、どうやってそれが達成されたのか? それは、「預言者的な想像力(Prophetic imagination)」を通して達成された。過去の過ちを超えて前進するための、新しくて創造的な方法を、大胆に思い描くことを通して達成されたのである。報復を求めるのでなく、正義を無視するのでもなく、回復的な正義の道、真理と和解の両方が成り立ち得るような新しい方法によって、達成されたのである。ネルソン・マンデラは、第二次世界大戦後のナチスの戦犯の裁判のようなことを行えば、南アフリカが引き裂かれることを理解していた。同時に、過去になされた不義を単になかったことにするのであれば、それは真理に反するさらなる不義をもたらすことも分かっていた。そこでネルソン・マンデラは、第三の道(A third way)を思い描いたのである。ニュルンベルク裁判でもなく、国家的記憶喪失でもなく、回復的な正義の道である。…
これによって正義は、次の復讐のサイクルをもたらすだけの、醜い報復にはならなかった。しかし、正義が否定され、被害者が忘れられたわけでもない。第三の道が見出されたのである。真理の道、和解の道、赦しの道。永遠に復讐を求め続ける自滅的なあり方を超えた、国家に将来を与える道である。真理と和解が共に舞い踊り、どちらも否定されることがなかった。詩篇の作者が歌ったように、「恵みとまこととは、互いに出会い、義と平和とは、互いに口づけ」したのだ。…
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Fight or flight... 私たちは、何らかの危機を感じたり、ストレスにさらされると、闘争するか、逃走するかのどちらかを選びやすい。それは、自律神経系の働きによる、人間の本能的な反応なのだそうだ。たとえば、人間関係の中でも、自分が責められたり攻撃されたように感じると、防衛的になって過剰反応したり、あるいは問題から目をそらして泣き寝入りをするかもしれない。そして心の中では苦みや恨みを暖めてしまうかもしれない。日々のさまざまな危機的な状況の中で、闘争でも逃走でもない、平和と和解を求める、第三の道、第三の方法によって、応答できるようになりたいと祈らされる。
あるいは、もっと大きな事柄、社会的な事柄、国家的問題において、私たちは今、危機にさらされているかもしれない。奇しくも、マンデラ氏が亡くなられたという知らせが入ったのと同じ日に、日本では「特定秘密保護法案」が可決された。それが日本国民に、またキリスト者に、何を意味し、どんな影響を与え得るのか、その全貌は私にはまだよくわからない。ただ、私の信頼する友人や先生がたが、この法案に反対して動き始めておられる。(こちら)自分はアメリカにいるからといって、無関心ではいられない問題であることは分かる。この件に関して、私たちがキリスト者としてどのように応答し、行動すべきなのか、日本の兄弟姉妹たちと共に知恵を求めて祈りたい。今の日本の状況で、キリスト者が「預言者的想像力」を用いて日本のこれからを思い描くなら、それはどのようなものになるだろう。その名も「The Prophetic Imagination」という本を書いた、ウォルター・ブリュッゲマンという神学者は、「預言者的想像力は、現状を、力強く、思いがけない方法で変化(トランスフォーム)させることができる」と言っている。マンデラ氏が行使したような「預言者的想像力」を、私たちも持てるなら… キリスト者として、神の義と真理と平和と和解とがもたらされる方法を、祈り求めたい。闘争でも逃走でもない、二者択一にしばられることもない、第三の道を求めたい。
- 作者: Walter Brueggemann
- 出版社/メーカー: Augsburg Fortress Pub
- 発売日: 2001/06
- メディア: ペーパーバック
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ちなみに本書は、鎌野直人先生の翻訳で邦訳版が現在準備中です。詳しいことは現時点ではわからないのですが。英語圏で神学校に行った人たちと話していると、皆さん、この本は必読書だったようにおっしゃいます。日本語版も早くでるといいですね!
追記:出ました!
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